青銅の鳥居をくぐり、にぎやかな参道を上っていく途中、ジューッという音と香ばしい匂いに思わず足が止まる。 生だこを丸ごと２杯使用し、その場で焼き上げる「丸焼きタコせんべい」は、このお店の大ヒット商品だ。

「新しい江の島の名物を作りたかった」と話す店主の米井さん。 おいしいのは当たり前、だけど誰もやっていないようなことをしたい…という思いから飛び出したのは、生のたこをそのままプレスするという奇想天外なアイデアだった。 しかしこれが大当たり。 できたてのアツアツ、パリパリを食べられるとあって、週末には長蛇の列ができる。 「ずっと並んでくれて、やっとせんべいを受け取ったときにニコッとしてくれる。この瞬間が嬉しいね」

意外にも「昔は江の島は好きじゃなかったんだ」という米井さん。 観光地の土産店は当然、休日が忙しいとあって、子供の頃もどこかに連れて行ってもらった記憶がない。どうしてもこの島を出たかったという。

ところが、会社勤務ののちに江の島に帰ってきて、江の島の「すごさ」に気づいた。 「島全体を、島民の幸せを、弁天様が守ってくれている。その感謝の気持ちを忘れてはいけない」 タコせんべいのアイデアも、江の島を訪れる人への、そして、島の神である弁天様への感謝の気持ちから生まれているのだ。